脂質異常症とは?
脂質異常症とは、血液中の脂質の値が正常の範囲にない状態です。脂質の状態を表す指標として、①中性脂肪(トリグリセライド)、②善玉コレステロール(HDLコレステロール)、③悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の3つの値があり、動脈硬化の進行とも関わりのある数値です。
脂質異常症は危険な病気?
脂質異常症だけでは目立った症状が現れないのですが、気づかないうちに動脈硬化が進み、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患や、心筋梗塞や狭心症などの心疾患を発症させる危険性が高くなります。
血液に含まれるLDLコレステロールは過剰に増加すると動脈壁の内側に溜まってしまい、動脈壁を硬く分厚くさせてアテローム硬化の進行に繋がります。その一方で、HDLコレステロールは不要なコレステロールを集める役割を持つので、数が少ないとコレステロールが蓄積したままの状態になります。
中性脂肪そのものにより動脈硬化が進むことはありませんが、中性脂肪があまりにも増加するとLDLコレステロールの増加と、HDLコレステロールの減少を引き起こします。
LDLコレステロールの異常値は直接動脈硬化に繋がりますが、HDLコレステロールや中性脂肪の異常値も間接的に動脈硬化に関わるため、脂質異常症ではどの数値の異常も見逃さないようにしましょう。
脂質異常症の症状はほんとんど無い
脂質異常症は目立った症状が現れにくいため、自分で気づかず、ほとんどの場合は健診によって指摘されます。
HDLの数値が低かったりLDLの数値が高かったりする場合は、動脈硬化へと繋がり、血流障害に伴う症状や病気を生じる恐れがあります。腎臓病や心筋梗塞、脳梗塞、動脈瘤だけでなく、足の血管に詰まりが生じることもあります。
特に糖尿病やタバコを吸う方は、こうした疾患が悪化しやすくなります。
また、中性脂肪の数値が高い場合、LDLが高い場合よりは動脈硬化が発症するリスクは低いものの、異常に高い場合では膵炎の発症リスクが高まったり血液がネバネバになったりします。
脂質異常症の原因・なりやすい人
運動不足や食生活などの生活習慣の乱れが原因となることが大半です。発症率が約1%の稀なケースとして遺伝が原因で、子どもの時から異常が見られることもありますが、診断のためには特殊な検査が必要です。
どんな人がなりやすい?
運動不足や暴飲暴食だけでなく、糖分や脂質過多な高カロリー食、コレステロールや動物性脂肪過多な食事を好んだり、偏ったバランスで摂取している場合は、脂質異常症を発症するリスクが高くなります。
さらに、喫煙によって善玉のHDLコレステロールの減少や中性脂肪の増加が促されることが分かっています。
また、脂質異常症などの生活習慣病は、それぞれ影響を受けあっていくつもの疾患が発症しやすいため、糖尿病や高血圧の場合は、脂質異常症を発症する可能性が高まります。
痩せているのに脂質異常症になることも
痩せ型で脂質異常症を発症した場合などは、遺伝的要因が関わっていることもあります。
また、外見は痩せ型でも、かくれ肥満と呼ばれるお腹に脂肪が蓄積された内臓肥満の場合は、脂質異常症を発症しやすいです。
診断基準
脂質異常症は、通常空腹時の採血結果が、中性脂肪(TG)は150mg/dL以上、HDLコレステロールは40mg/dL未満、LDLコレステロールは140ml/dL以上の数値の場合に診断されます。LDLコレステロールが140ml/dLに満たない場合でも、120~139mg/dL場合は境界域と判定されます。これは、高血圧や糖尿病など他の要因が絡み合うことで冠動脈疾患が発症しやすくなるので、発症リスクが高くない状態であるかを確認する必要があります。
これらの基準値は、性別や年齢、タバコ、家族歴、CKD(慢性腎臓病)や糖尿病などの合併症の有無など、患者様個々のケースで変わるため、ご自身の目標値を医師にご相談ください。
脂質異常症 スクリーニングのための診断基準(空腹時血液検査)
中性脂肪(TG) | 150mg/dL以上 | 高トリグリセライド血症 |
---|---|---|
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
LDLコレステロール | 140ml/dL以上 120~139mg/dL | 高LDLコレステロール血症 境界域LDLコレステロール血症 |
脂質異常症の予防・改善方法
食生活の見直し
脂質異常症(高脂血症)を改善するためには、食事量と質に配慮して適正体重を維持することが重要です。具体的な例として、食材を選ぶコツや調理時に心に留めるべきことを詳しく次で解説いたします。
コレステロールの摂取制限
血液中に含まれるコレステロールには、小腸で吸収される食事由来のものと、肝臓で合成されるものの2種類があります。コレステロールや脂肪が豊富な食事を摂取し過ぎると、血液中に含まれるコレステロールが増加します。
食事から摂取するコレステロールの目標値は1日200mgを越えないようにしましょう。内臓類や卵類にコレステロールが多く含まれるため、摂取回数と摂取量を制限しましょう。
コレステロールは魚介類に多く含まれることもあります。しかし、魚介類はコレステロールを下げる働きを持つタウリンという成分も含まれているので、内臓や魚卵に気をつけるぐらいで問題ありません。
脂質の摂取について
脂肪は3種類に分類され、①飽和脂肪酸(S)、②多価不飽和脂肪酸(P)、③一価不飽和脂肪酸(M)に分けられます。
不飽和脂肪酸は血液中のコレステロールを減少させるように働きますが、反対に飽和脂肪酸は血液中のコレステロールを増加させる働きを持っています。
脂肪酸をバランス良く摂取するために、魚介類や植物油を積極的に摂り、脂肪分過多な乳製品や肉類の摂取は制限しましょう。また、トランス脂肪酸が含まれるショートニングやマーガリンは、摂り過ぎにより動脈硬化を悪化させるため摂取量に気をつけてください。
摂取する油は揚げ物や炒め物の油だけでなく、お菓子やパン類、カレールーなどに含まれる認識しづらい油にも気をつけて、1日の摂取量を大さじ1〜2杯程度を目安としましょう。
食物繊維を積極的に摂取する
主食や、ジュース・果物・砂糖などの糖分を過剰摂取すると中性脂肪が増えます。
1日3回の食事をきちんと摂取し、果物や菓子を食べ過ぎないように気をつけてください。
糖質制限
健康的な食事として世界的に糖質制限が推奨されています。すべての栄養素を減らすカロリー制限とは異なり、糖質の少ないものを選んで食べるため、空腹を我慢しなくてもいいのがポイントです。
ジュース・お菓子・パン・ビールなどを減らしたり、カロリーオフ製品に切り替えます。
間食を食べたい時は、ナッツ・チーズ・豆乳などが糖質が少なくておすすめです。
また、プロテインサプリメントを夕方に飲むと夕食を食べすぎなくて済みます。
飲酒を適量に抑える
アルコールは血液中の中性脂肪を増やす働きを持つため、飲酒を控えましょう。
また、アルコールはカロリーが高く自制心を低下させて食事制限が守れなくなる恐れもあるので、可能な限り飲酒を控えてください。
おつまみは動物性脂肪が少なく食物繊維の多い料理にして、適量を心がけましょう。
摂取を控えるべきものは?
脂質異常症のために、摂取できない飲食物は特にありません。
しかし、摂取量と摂取頻度には気をつけるべきものはあります。
運動による改善
食事療法と同時に、運動療法も取り入れることをお勧めします。適度な運動により基礎代謝量が増加して、肥満を予防するとともに体重を落としやすくなります。
また、中性脂肪の減少とともにHDL(善玉)コレステロールの増加が見込まれるので、脂質異常症(高脂血症)が改善されます。高血糖や高血圧の改善、血栓予防のために血管を強くすることは、運動の継続で効果が得られやすく、動脈硬化の予防にも有効です。
脈拍の基準値は、1分あたりの回数で、20代は150回、30代は145回、40代は140回、50代は135回、60代は125回です。なお、持病などの患者様それぞれの状況次第で基準値は変わりますので、医師にご相談ください。
椅子から立ち上がるだけの「椅子スクワット」や、気軽に取り組める「早歩き10分ウォーキング」でカロリー消費にトライしてみましょう。
薬による改善
はじめに、運動療法と食事療法による生活習慣の見直しを3〜6ヶ月かけて行います。生活習慣の見直しを図っても、中性脂肪やHDLコレステロール、LDLコレステロール、総コレステロールの値の改善が不十分で、なおかつ狭心症や動脈硬化発症の恐れがあるケースではお薬による治療を考慮します。
薬物療法の目的は、血液中の脂質の量を適正化することです。服用は長い期間に及ぶため、現在ご自身が飲んでいるお薬を理解し、またこれからどのようなお薬が必要となる可能性があるかを把握しましょう。脂質異常症の薬物療法に使用されるお薬は3種類に大別され、中性脂肪の数値を低下させるお薬、コレステロールの数値を低下させるお薬、両方の数値を低下させるお薬があります。
コレステロール値を下げる薬
- スタチン系製剤(HMG-CoA還元酵素阻害剤)
- 陰イオン交換樹脂(レジン)製剤
- 小腸コレステロールトランスポーター阻害剤
コレステロール値と中性脂肪値を下げる薬
- ニコチン酸誘導体製剤
中性脂肪値を下げる薬
- フィブラート系製剤
- EPA製剤
- オメガ3脂肪酸